General Exam: 都市における協働バージョニング

ドラフト

ケントからの Feedback

  • Primary, Techinical, Contextual のそれぞれをもう少し補足する
  • そのうえで、参考文献をもう一度おさらい
  • イントロ部分でそのサマリーを書くこと

Collaborative Versioning in Cities

コラボレーション(Collaboration)という語の語源は col- と -labor から来ており、直訳をすれば「共に働く」ということになる。広く一般的な意味として、同じ目標に向かって複数が仕事をしあうことということになっている。要求が複雑化し、限られた都市計画家や役所とが独断的に計画する限界が示唆されて久しい。市民も含めた様々のステークホルダーを持って集団的に「同じ目標に向かって協働」する参画型の計画、時代を追い重要性を増してきている。とすると、この Collaborative という語彙は前提と捉え、不要に思える、しかし今なお方法論については研究が盛んである。また通信技術の発展によって、情報を交信し合う事のコストが激減したとはいえ、そのようなテクノロジーの進歩がそのまま熟議や集団的意思決定の深度へ貢献しているかという事に疑問の声が多く出ている。

ヴァージョニング(Versioning)という語は、ラテン語の転換(turn)という意味から来ている。ここには(ある状態から次の状態へ)遷移する、すなわち変化という名の時間が流れていることになる。また、この先も変化しうるという意味も含蓄されている。

最近では主にソフトウェアの分野で使われるが、これも永遠に変わり続ける事が前提となっている。人々はいまだ頒布前の未来のバージョンに期待を寄せ、マーケティングの戦略の中でマイルストーンの策定は重要であろう。また、大文字の Version は聖書の別々の「版」を示す時にも使われる。過去の史実に対しての新しい解釈を提示する時に使われよう。信者はその新しい解釈に合意する。

このようにソースや出版物が動的である事を示すのに version という語は使われている。

遷移を示すと同時に、一つの独立した「版」として成り立たせるという役目もある。連続に流れる時間のある時点での状態のアーカイブでもある。時間の離散化という考え方もできるだろう。いうまでもなく、都市は延々に移ろい続ける特性を持っているが、フォーマルにその時間の切り取り方(その記法)は歴史家による解釈に基づいた記述の方法が主な方法である。情報量の氾濫に日夜曝される現代において、これらの情報を歴史家のみならず様々な立場の人によって共同編集する方法はないだろうか。

この二つの言葉で共通するのは意思決定という意味が暗黙的に含まれている事である。コラボレーションの意味の中で言われる「同じ目標に向かって協働」する際、その目標を定める意思決定プロセスも含まれている。Versioning にしても何を持って単一の独立した「版」とするかという意思決定が存在する。

過去のアーカイブ化もふくめて、変化に寄り添い未来の像をともに構築していく方法を博論で追求したい。この二つの言葉を組み合わせてできる計画はいかなるものか?という問いに対する仮説を構築すべく、一般試験では、この分野における既存研究の整理と、このコンセプトを進める準備に充てたい。プライマリーエリアでは、都市における集団的合意形成の既存の方法についての網羅的な視点を保つための調査を行いたい。特にテクノロジーが市民参加によって十分な審議を可能にしながら、集団的合意形成を効率化する手立てについての知識を深めたい。技術面では、技術開発の中で使われている協働編集のツールを参考にしながら、分散システムの実装で要点となるマシン同士の意思決定方法についての知識を確認したい。また、民主的プロセスに必要な投票の方法論についての研究も参照する。逆にコンテキストを考える部分では、人間同士の共同作業においてどのような方法がとられてきたか社会科学的な背景を抑えたい。他の創作メディアの中での共同作業がいかに文化醸成に寄与したかを考える事で、都市計画がその方法の中でなにを借りれるかを考え、同時にその文化価値を取り込むシステムを開発する上で必要な事を把握したい。

1. Primary Area

都市における集団的合意形成について、我々シティサイエンスグループは主に CityScope というプロジェクトを通して考えてきた。もともと一つの完成された「ツール」として開発されていたが、そのプロジェクトの数と機会と増加にしたがい、プラットフォームとしての特性が高まっている。

私は、このプロジェクトはその中で、それぞれのシミュレーションや物理的なテーブル、およびフロントエンドをつなげる中継役として機能する CityIO の開発・運営を行ってきた。自分では何もしない、情報の中継役という考え方もあれば、見方によっては、シミュレーションなどマシンサイドの情報の入出力と物理テーブルとフロントエンド(ビジュアライゼーション)から得られる人間側の入出力に関わる情報が集まる関所と捉える事ができる。プラットフォームとして成り立たせるためのアーキテクチャにもっとも近い場所にいたとも言える。

その中で、CityScience グループで行われているプロジェクトとの中で、もっとも関連性が高いものが、ハンブルグ市で行われているものである。このプロジェクトでは、 CityScope プラットフォームを建築家からの都市開発提案に利用している。都市に大きな影響を与える開発プロジェクトは往々にして各建築家がそれぞれの提案を強く説明するシミュレーションを回し、評価の基準がバラバラになってしまう。ここでは、各提案を CityScope 上に入力する事を設計コンペの要綱に組み込む事で、市民側が要求する指標にどれだけ合致しているか、プラットフォーム上で駆動するシミュレーションを同じ物差しで効果測定を行うことができる。この延長で、市民が設計提案の編集を行うようにした上 で、各建築提案をリミックスできる仕組みが考えられる。これこそが、市民参画型の協働編集と言えるが、それを実現可能にするには各提案がバージョンとして保存されていることが前提となる。

博論の中で中心的に扱うであろう都市の共同編集について、世界中で行われている取り組みを整理する枠組みを模索したい。と言っても様々な形や方法があり、バロセロナが進める審議のため新しい情報テクノロジーを用いたものもあれば、アメリカ開拓時代から続く直接民主的に都市政策の合意形成方法もあるだろう。これらの例をどのように整理すればいいのかを考えたい。都市計画のことに絞っても既存の民主プロセスには無駄が多く遅いと指摘されながら、一方で不十分な審議で物事が決まってしまうという懸念がある。新しい投票の方法を見ることによって、必要な審議により濃密な時間を割きながら、プロセス自体を効率化するヒントが得られると考えている。数年に一度のマスタープラン変更から、さらにアジャイルに街を変化する世の中に順応させる助けになるとともに、住民のそれぞれの意見をパッチワークさせてともに成長するためになくてはなならない視点である。

2. Techical Area

技術的には主に三つの視点が重要だと考える。

一つの目の視点は、マシン同士がいかに合意に達するかということを研究してきた Distributed Systems の範囲である。各データセンターの巨大化分散化に伴い堅牢なサービスを展開するために考えられてきた障害耐性(Fault Tolerance)に関する研究は障害が起きた時に、どのデータが正しいデータかを複数のマシンの間で合意形成を担うコンセンサス・アルゴリズムが考えられている。この方法は、ロバストなシステムを作るという事もさることながら、いかにこの合意形成が機械同士という抽象的なレベルでも難しいかという知見を与えている。データセンターレベルでの話に止まらず、並列処理やコンカレンシーによって複数のプロセス間での情報の合意をとる仕組みも同じことが言える。これら機械同士の協働と我々人間がとりうる合意形成にどのような差異があるかを考えたい。

二つ目の視点は、現在行われている協働の中でもっとも産業として成功していると言っても過言ではないソフトウェア産業での協働を支える技術の知識である。言うまでもなく、 Git と GitHub によるコンピュータプログラムのソースの扱いは現代の技術開発に大きな影響を与えている。Git は分散バージョン管理システムとして、人間がそれぞれのバージョンにローカルで作業をしつつ、それをリモートレポジトリにてある違うバージョンを調停させる目的を持って使われる。Git というプログラムはそれを補助しているという意味で、機械と人間の協働作業とも言える。Git そのものに対する技術実装的な知識と Git を用いたコードとそのまわりのコミュニティについてのノウハウを対象としたい。

三つ目の視点は、合意形成を行うための投票行為に関するものである。民主的なプロセスの中で、住民それぞれの立場や意見を宣言するのに使われる投票の方法に様々なやり方が提案されている。例えば、1980 年代からブラジルで始まった市民参画型予算組を遂行する上で、自分の票を分割し予算を割り当てる方法がとられ始めている。これは数年に一度の市長を選出し予算組も市議会に任せると言ったものよりも遥かに解像度が高い民主的なプロセスである。さらに自分の票を分割しながら、他人に自分の票を一部(あるいは全部)委任するという方法論も提案されている。これらを提案を技術的に支える方法としてなにが必要かという課題を洗い出すために、既往研究を俯瞰したい。

このベースとなるアプリケーションは、すでに 2014 年に一度開発している。簡易的な 3D モデリングを可能にするウェブアプリで送信されたモデルのデータに差分をかけ、二つのモデルがどの程度似ているかを算出した。その上に投票できるシステムを設け、得票を似ている親モデルにキックバックする仕組みを作った。このプラットフォームには 700 以上のモデルが提出され、それに応じて遺伝的アルゴリズムを利用したボットにより提案を組み合わせるという仕組みも実装した。このプラットフォームをベースにそれぞれの差分の取り方や投票システムをアップデートしたシステムを実装したいと考えている。投票システムにおいては、票を分配する事で、間接民主主義と直接民主主義を両方行う事ができるリキッドデモクラシーという方法を可能にする計算モジュールを作った。これらのシステムを統合する事で、合意形成がいかに助けるかを見てみたい。

3. Contextual Area

他人の行ったことを引用し、それを組み合わせることによって新しいものを作る行為は科学の基本的な方法に止まらず、様々な文化的創造活動において散見される。音楽や料理、編集、ファッション、芸術、科学、プログラミングの中でこのような協働がどのように行われ、それが文化創造にいかに貢献してきたかを把握したい。これには二つの理由がある。

一つは都市やまちづくりにおいての協働作業を考える上で、上述の他のメディアで行われる協働において、下敷きとなるコンセプトを探すためである。例えば、音楽におけるコラボレーションを示す言葉には、サンプリング、ミキシング、ジャム、ヴァージョン、DJ と様々である。また芸術においては昔からキュレーションという形で複数の作品を編集しまとめるということを行ってきた職能がある。このような概念の中で、都市計画を協働でする際に、なにを借りることができるのかを考察したい。

もう一つは、これらの他者の介在を前提とした創造活動がそのままコミュニティやひいては地域的なアイデンティティとして成立し、それが計画や街のあり方を考える上でどのような相互影響があるかを確認するためである。さらにいうと、この先に提案されるシステムはこうした地域的なアイデンティティをいかに捉えることができるかが一つの評価基準になると思われる。

このベースとなる考えは、高校生向けのワークショップで試行をし始めている。参加者一人一人に一色の色鉛筆を持たせ、 1回 20 分と時間を区切って複数回に渡り計画案を書いてもらう。回を追うごとに、同級の生徒とそれぞれの提案を交換し、追記していく。これはアナログな方法でのワークショップだが、協働編集の考え方が身につくと同時に、他人の考えを汲む訓練によって都市計画そのものに対する理解が早い。

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