Sidewalk 撤退よりも気にしたい Keybase 買収

ぽしゃったね Sidewalks

Alphabet 傘下の Sidewalks Lab がトロントでのプロジェクトから引き揚げて、スマートシティ研究をしている人のなかでは、少し話題になりました。ちょうどその発表の数時間後にうちの研究グループに Smart Enough City green2019smart の著者である Ben Green のレクチャーが予定されていて、なんか「ほーらーやっぱそうだよなー」、「プライベートにまかせちゃいかんよねー」、「ほーら俺らのいった通りだよねー」って馴れ合いな雰囲気が一瞬出たけど、トロントだって、Sidewalk だって相当疲弊したと思う。トロント市民も Sidewalk のみなさんもお疲れ様。

Sidewalk のやり方がおかしかったにせよ、腐ってもテクノロジー側の僕の意見はもうちょっと粘って泥んこになって欲しかった。新参会社のガス欠でしょう。それにしても、スタートアップの一つの弊害は効率が悪い事だよね、僕にはアメリカンドリーム乗っけたアメ車に見える。この失敗が参考になるかって言われたら謎だし、後からなら何でも言えるけど、Sidewalks と酒井所属のラボレベルでの印象はあいつら話を聞いてくるわりに何もシェアしないんだって感じ。

関連するところでいうと toyota woven cityについては雑感を(期待と皮肉を込めて) 1 月に描いたので、興味がある方は参照されたい。Sidewalk の取り組みが外れたからといって、トヨタの取り組みも同じ末路を辿るとは限らないし、仮におじゃんになっても別の要素だと思う。皮肉ったけど頑張って BIG! Toyota と裾野市!

Google が建築や都市計画、大雑把に言えば物理空間とかアーバニズムに投石してきたのを数えて見ると僕の中では 4 度目でやっぱ物理環境きついよねで終わった格好だ。

  • 最初は SketchUp 買収 -> 売却。1
  • 次にあの何だっけスタートアップ、名前も忘れちゃったよ笑。2
  • それから NYC の LinkNYC キオスク端末作ったはいいけど批判散々でした。3
  • んで今回のトロント市撤退。

スマートシティ系で Amazon も色々やろうとして失敗して、正直 IT 勢苦戦してます。肌感覚、AI や自動運転に対する投資額も減ってきてるし、科学不信、テクノロジー不信も相まって淘汰圧高い印象。月並みですが、失敗しているからといって捨てちゃうのはもったいないし、だから市政はテクノロジーじゃないんです人なんですと竹槍全裸で当たり前な事言われても白けちゃう。

…まあ、いいんです。トロントは。まず、Alphabet の Sidewalk がやるっていうので他の市町村にはちょっと比べられないし、色々特異だから持ち帰れる知見も展開できるのかどうか謎。4 Sidewalk が壮大な反省文を書いたらかっこいいし役に立つと思うけどあんまり期待していない。

それよりも…

僕がもっと悲しいのは zoom.us が Keybase を買った事で、こっちの方がスマートシティの文脈的には(少なくとも僕の中での)インパクトが大きいと思う。Zoom とかこのミーティング系の胡散臭さ5は cisco(webex), microsoft(skype), google(meet) だろうが今はどんぐりで、OS 側も追いついていない印象6だし、Jetsi 使えるからって別に入れてない僕がいる。あんだけ叩かれて頑張って追いついてきてると思うし。Zoom に関していえば中国で開発されていようが、アメリカで開発されていようが、別に権威で剛腕トップにあとフラットという政治体勢は相似に見えるし、自由の国アメリカでさえ、今はマスク付けずに外出したら$300 罰金というださい感じだし…7。でも、だからって Keybase 買わなくてもいいよ。

で、keybase は何かって言われたら、一言でマイナンバー制度の一つのオルタナティブとして真剣に考えてたかっこいい会社と認識しています。最近だと色々手出してましたが一見しがないセキュリティー意識強めなメッセンジャーとかグーグルドライブの二番煎じしか作ってなくて、別に Telegram とか Signal とかあるじゃんって言われそうだけど、「アイデンティティーをどうやったら守りつつ有効に使えるか」を考えていました。具体的にいうと Line やら Facebook やらのアカウントを相互参照して、本当にその人であると証明する事をしようとしてたのです。言わずもがな結構トリッキーで、他のサービスで「google/apple_id でサインイン」とか流行ってますけど、うかつにやらない方がいいですよ。Keybase はこれをなるべく正確に透明に(open source)にやろうとしてたってのが僕の印象です。暗号技術バリバリ使って、仮想通貨がバブってた時も親和性高いのに全然お金の匂いがしないのに、でも理想と現実のバランスもよかったと思う…。

国民背番号システムのオルタナティブ

自分のアイデンティティに関わる情報を誰に渡すかと言われたら相当の信頼が必要ですよね。ましてはそれを一元管理なんて。日本をいくら信頼していても運用はどうでしょう?外国人としてアメリカに SNS のアカウント渡したいですか?グーグルに自分の位置情報どれだけ渡したいと思いますか?iPad で天気表示させるたびに Apple に位置情報渡してますよ?まあ、こうゆうビッグブラザー系の話をして暇つぶしできるけど、詰まるところ、悪さできない状況8で運用されているか監査システムがあるかどうかが僕の一つ大きな評価基準です。前述の国や企業はこの情報管理の仕組みを開示していません。この Keybase という会社はそれを自分のコードを開示してやって行く姿勢がありました。

世界中で国民背番号制が進んでますが、Keybase はそれをさらに中立的にやる方法を模索していたように感じています。最終的にこの会社を信頼できるか?9はわかりません、でもその姿勢は正しかった。加えて難しいセキュリティに関することも無謀にもいろんな人に使えるように裾野を広げようとしていてた。もう死んじゃったかのような言い方ですが、まだわかりません。zoom が思いっきり透明になればいいけど、(アメリカの企業を装って中国で開発されてんだぜーって)プロパガンダとして使われちゃう時点でしょぼい。どっちでもいいけど、悪さしていないって事を証明してほしい。Open source ってオープンにしてみんなハッピー頭お花畑な考えじゃなくて、公益性・透明性・公平性という社会性を帯びた応用範囲では前提条件だと思うのです。それが企業価値に直結するかどうかは各々会社がご判断されれば良いでしょう。Sidewalk が情報の扱いをクリアにした上で、一緒に地獄の底までやりますと言えば続いたと思うんです。BIG は置いておいて、トヨタ/日本の会社にはできるんじゃない?何でもかんでもオープンにしてくれとは言わない、秘密が一番いい時だってある10。けどスマートシティは特にオープンにした方がいいと思う。

で結局何よ

スマートシティ政策で何をやるにせよ、このアイデンティテールールがしっかり策定されたうえでやるのは前提になるでしょう。というかなって欲しい。それを考えてないと、スマートでも何でもなく Google がやればただの搾取モデルだし、逆に市だけでやっても文化祭でしょう。逆にこれがしっかりできてると、人の信頼が潤滑油になって初めてテクノロジーがブレンドして進むものも沢山あると思う。おそらく、Keybase みたいなサービスとスマートシティ政策を一体で考えてる 人なんてマイナーだろうし、鼻息荒くマイナンバー制を一からやり直せって言ってるわけじゃないけど、ここ重要だったと思うよって指摘でした。Keybase としてもそんなめんどくさそうな事に巻き込まないでよって感じでしょうよ。だけど、Sidewalk 撤退の最大の論点がまさにここだった事をみんな考えるべきだ。市民の情報を売り物にしていくビジネスを公共サービスとして受け入れなかったトロント市民たちは、まさにその個人のアイデンティーが広告という商品に還元される事に抵抗があり、トロント市という集合的なアイデンティーと Sidewalk という方法論がマッチングしないと僕らに教えてくれてるような気がする。

じゃあ似てる取り組みはって言われたらBlockstackかな。その上で、パスワードマネジャーとかやれば、情報銀行も良い感じだと思うんだけどね。

以上、トロントの Sidewalk 撤退も一つだけど、こっちの方が僕は気になりました。

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Bibliography

[green2019smart] Green, The smart enough city: putting technology in its place to reclaim our urban future, MIT Press (2019).


  1. SketchUp で使えた Ruby のインタープリター遅かったなあ。 ↩︎

  2. あの Revit と色々くっつけますで終わったやつ。Flux.ioだった。今はもうない。 ↩︎

  3. 「NYC に無料 wifi をしいて全ての人にアクセスを」と聞こえはいいけど、そこから 情報吸い出して、Sidewalks は生計たてるって事で気持ち悪がられて批判されました。 ↩︎

  4. このプロジェクト自体に人の言説を借りるないで、自分の検証として2年 前に書いたレポートがあったんだけど、それもいつか引っ張り出したいと思った。端的に、 彼らのレンダリングから、彼らの構想する道路幅員や D/H を割り出して、用途や計画的 に何か新しいわけではなく、木造建物とおもしろ路面タイルと LinkNYC を入れますって 提案ですとって内容でした。 ↩︎

  5. zoom のやばさは有名になりましたね。 https://citizenlab.ca/2020/04/move-fast-roll-your-own-crypto-a-quick-look-at-the-confidentiality-of-zoom-meetings/ ↩︎

  6. mac で仮想ビデオデバイスをでっち上げてそれを zoom の背景に使って、VJ できるん じゃねって思ったのだが、OS 側も色々試行錯誤している事がわかった→github のコメント 参照↩︎

  7. これは単純に「ださい」判定でいいのでは?法律もいいけど規範を信じればいいのに。いやいや、アメリカは甘くないのかな、ってことは野蛮って認めちゃってるよね。南部は知らないけど、リベラルなマサチューセッツ州ですよ? ↩︎

  8. アメリカだと、google のモットー"Don’t be evil”(悪になるな)から blockstack の CEO が提唱しているいやいやそもそも"Can’t be evil”(悪になれない)状態にしようよっ て事です。 ↩︎

  9. 信頼できても全てが解決するわけではありません。誰かが、送金するのに誰かが銃を突きつけて(あるいは泥酔させて)本人に操作するのを防止するのは難しいですし、いくら簡単にしたとしても、それが”みんな”が使えないといけません。 ↩︎

  10. レッシグの伊藤穰一擁護文参照。 ↩︎